『セルルック3Dキャラクターって何か違和感がある』
アニメの中で違和感のない3D表現・使い方がされているものも勿論ありますが、こと「キャラクター」に関しては作画で表現されたキャラクターに比べて【違和感がある】と感じる方も多いんじゃないでしょうか。
僕もその一人です。
アニメCG業界で10年程度働いてきましたが、「作画やフルCGで表現できていて、セルルック3Dキャラで表現できていない部分」というのがあるのは認識していて、「課題」だらけです。
そこで、そんな「アニメ表現における3Dキャラクター」に関する「課題」をまとめてみました。
これが解決されれば「表現手法」として見やすくなり、違和感がなくなっていくんじゃないか…と思っています。「そんなこと気にすんな」みたいなこともあるかもですが、ブログの書き始めにしてみます。
なお、「アニメ的な表現の3Dキャラ」は一般的には「セルルック3D」と言ったりしますが、他にも「トゥーンレンダリング」と言ってみたり、タッチや色んな質感などを入れると「ノンフォトリアリスティック」とか「絵画表現的」と言ってみたりと色々な言われ方がします。面倒なので、ここではわかりやすく「アニメ3Dキャラ」と言うことにします。
では、「アニメ3Dキャラ」の『違和感の正体』について探ってみます。
①物理現象がきちんと描けていない
基本中の基本ですが、まずこれをきちんとできていないと思います。
「3DCG」というと、こういうのは得意そうに思えますが、かなり違和感の少ない「3Dアニメ」でも、これがきちんと描けているものは、僕の知っている中だと日本の作品では見たことがないです。(海外の作品にはあります)
例えば「布」や「髪」とかが、最もわかりやすいんではないかと思います。 「シワ」一つとっても、体を動かしたときのシワの変化がきちんと描けていません。 作画の美しい髪のなびきなんかも、3Dでできている例はまだ見たことがないです。
よく見る「アニメ3Dキャラ」ってこんな感じじゃないでしょうか。
デフォームである程度それっぽく表現しようとしていますが、所詮は「それっぽい」止まりです。
「作画」と比べると解像感が低いと言えます。
他にも筋肉や人体構造の変形なんかも、きちんとできてないです。
各所破綻を起こしやすいのは勿論、サブディビジョンの効果やデフォームの効果でいろんなところが丸くなりやすかったりします。こうなると、ポーズをとった際に塊が動いている感が出たり、「なんか妙に丸っこい」となります。
「引き」なら持ちますが、アップになると厳しくなってきます。
同じ3DCGによるキャラクター表現でもPixarやDisneyなどのCGが違和感がないのは、まずこの辺りがしっかりしていると思います。(当然予算があるからというのもありますが、ここでは一旦そういうことは気にしません)
この辺がしっかりしないと、まずもって「描かれている対象がそれらしく見えない」んですね。
子供向けの動物モチーフのシンプルなキャラクターとかだったら気にならないかもしれませんが、「アニメ3Dキャラ」はその性質上、割とリアリティのある作品の方が多いので、自然現象が描けていないと、人間は当然それに違和感を感じます。
②ライティング表現の制御
簡単に言えば「影付け」「ハイライト」です。 これが適切にコントロールされている作品の方が少ないと思います。
テクスチャ固定影で「影が動かない」か、ライティング影で「気持ち悪い感じの変な影が沢山入る」が違和感の原因として多いんじゃないでしょうか。
作画もそんなにライティング表現をこだわるカットはありませんが、3Dの場合はかなり意図的にコントロールしないと「不自然」になります。
- シェーダ開発
- テクスチャ
- 法線制御
- オブジェクトとして作る
- 描く(パスを切る)
などなど…色々な手法が開発されていますが、未だ「直感的で、効率的で、かつ自然に見える決定版みたいな方法」は「ない」と言えると思います。
しいていえば、DisneyのMeanderみたいなことができるようになったら、もっと表現が増えてきそうだと思っています。(Papermanは10年前、Feastは8年前の作品ですが、よくできてますよね…)
「売ってくれー」と思うのですが、Disneyが一般開放してくれることはないと思うので、僕は「Blender」や「クリスタ・CACANiあたりのベクター強そうな2Dソフト」や「PSOFT」さんに期待しています。
細かく制御したい影の形に関しては、結局何かしらして描くのが一番早くてクオリティ高そうに思えます。
Arcane StyleのTutorialとか、Papermanのメイキングとかも見ると、やっぱり何らかしら描いて制御してそうですよね。
③情報量の制御ができてない
作画って「絵」ですよね。 そして、「アニメ3Dキャラ」というのはその作画を模したものです。
描いてみれば自然にそうなるんですが、 例えば、「遠くの人間を描くとき」と「アップ」では情報量が違うんです。こういったことは「作画注意事項」に描かれてることもあります。
もっと言えば、作画では「寄り」と「引き」はもちろん「キャラクターの心情」「演出的な見せ方」によって体の雰囲気とかも描き分けてます。 特に子供のキャラクターはそういった変化が強い気がしています。
「ジブリ」のアニメーションとか、それが顕著ですよね。
当然カットによってそれぞれの作画さんの手癖や好みは入りますが、「印象」を上手くコントロールしているように見えます。(監督はもちろん、作画監督さんや演出陣の仕事が素晴らしいのかもしれないです)
魔女の宅急便 – スタジオジブリより引用
これが3Dだとほぼ一定になりやすいんです。 なぜなら、3Dモデルは基本1つで、それに依存しているからです。
これはメリットでもあって、例として1つ挙げるならば、「品質が安定しやすい」という点があります。
作画の作品は「作画監督」がいなければ基本的には成り立たないようです。
3Dはモデルが下手でなければ、いわゆる「作画崩壊」的なことは起きづらいです。
ただ、正しいんですが、「表現」としては物足りないです。
「絵」なので、「よりそれらしく見えてほしい」ですよね。
もちろんここは「3Dアニメーター」の腕によって上手く「よりそう見えるように工夫できている作品」もあります。ですが、「作画ほどか?」と言われると、ほとんどは「変形できる領域内で頑張っている」というのが現状でしょう。
情報量が一定だと何がよくない?
個人的に3Dキャラの弱いと思っているのは、「寄り」つまり「アップ」のカットです。
作画は描き込みによって、アップの時の絵が印象的に表現されてたりします。
そうすると、情報にコントラストができるので、見ていて面白いんです。
「アップ」にするってことは、演出的にはよりその対象に対してフォーカスしていることになるので、より「解像感」のある絵の方がその心情が伝わりやすいですよね。
3Dは基本「設定画」基準で作るので、何らかの意図を持ってそのカットに何か要素を付け足さない限りは、情報が一定になります。
そうすると、毎回同じような絵のキャラクターが映るので、映像としてのコントラストが低くて、作画に比べると「つまらない」という印象を受けやすくなるかと思います。
他にも色々ありますが、長くなるのでまた別の機会に書こうかと思います。
ちなみに3DCGにもゲームとかでよく使われる「LOD処理(Level of Detail)」っていう「距離に応じてポリゴンを間引いていく処理」があるんですが、あれとは考え方が違います。「表現意図」がきちんと入るのがポイントかと思います。
④絵になっていない、表現の幅が狭い
上記①~③の通り、「絵」としての「画面の表現力」が作画よりまだ劣っています。
これは違和感もありますが、「変化の少なさ」は「画面のつまらなさ」みたいなものを助長しやすいかと思います。
作画の場合は作品によっては記号・デフォルメ表現なんかを遊び的に入れたりしますが、3Dの場合はそれがアセットに紐づくので、手間かかって時間がかかるとか、ワークフローの関係上やりづらいとか、色々な制約がかかりやすいです。
3DCGは工程が多くて、作画に比べてサラッと作るのは現状難しいです。ちょっとした調整とか「こうしたい」と思っている要素があっても、3D上では調整するのが億劫だったり、技術的に難しかったりします。
あとは、人体にまつわる様々な「エフェクト」や「ダメージ表現」なども作画ならすぐ足せますが、3Dだと「キャラアニメーション」と「エフェクト」などは別枠になり、「雰囲気足し」みたいなことが手軽に行われないのも、全体的な品質ダウンに繋がっているかもしれません。
すごく様々な要素を意識して仕組みを作るか、ジェネラリスト的な即興性・独創性を受け入れる現場じゃないと、画面が面白くなりづらい性質を持っているかと思います。
他にもシンプルなデザインだと、アップになったときに「手書きのゆがみ」や「手書きによるニュアンス」がないので、「きれい過ぎる」感じのなんともいえないデジタル感のある絵になりやすかったりします。(あれは多分手書きでも熟練の技だと思いますが)
⑤作画と混じると違和感を起こしやすい
「作画」と「3DCG」は別物です。
これは動きもそうですし、一枚絵でみても別物になります。
お互いに「近づける」ことはできますが、線の質をとっても一緒にはならないですし、そこに労力をかけるのは無意味と思えます。
ここまでつらつら書きましたが、「アニメ3Dキャラ」も全編それで見れば、案外そんなに違和感は感じなかったりします。
②の「情報量」にも関係しますが、『情報の質』が均一であれば、視聴者的には「そういうもの」として見ることができるので、違和感がないんですね。
「混ぜるな危険」もしくは「取扱注意」といった感じでしょうか。
ここで大事になるのは「演出」の力で、「別物に見えていいもの」であれば成立します。よくあるのはロボットとかモンスターとかを3DCGにする、「回想パート」を全部作画にする、「エフェクト」や「衣装の一部」を作画にするとかです。
他にも「モブ」とかは「群衆として見せたい」という「演出意図」が入るので、「別物」として扱えますし、大体小さいのでそんなに違和感ない感じになりやすいです。
よくないのは「演出意図が入っていなかったり、最終絵の仕上がりが練られていない中途半端なまぜこぜ」です。
- 「作画が描けないから3D」
- 「数カットしか出てこないものを3Dでアセット作るとコストがかかるから作画」
こういった大人の事情が入った上で、「比較的寄り」で「作画のキャラとCGのキャラが同じカット内で同居」しつつ、「双方動く」とかは最悪ですね。
まとめ:3DCGってめんどくさい。
考えてみれば作画さんたちが自然に描いている当たりまえのことができていないだけ。
総括としては、こんな感じでしょうか。
ただ、これって別にCGの人が悪いわけではなく、単純に黎明期的なことを感じます。
例えば、「レスポンスの悪さ」。
パッと足したいときに作画だったら、当たり前ですが面倒だけどそこに書けばすぐ反映される。 CGだとちょっとしたことをするのに仕込みが必要だったり、すごく手間がかかったり、結果を見るのに時間がかかったりします。「面倒だからやらない」というレベルではなく、「扱う範囲が多すぎたり、制御が効かなかったり、レスポンスが悪すぎて、だんだんわけわからなくなっていく」というのが適切な感じかと思います。
クリエイターって小さいのから大きいのまでトライ&エラーを繰り返していると思うのですが、この「レスポンスが悪い」というのは、それだけでクオリティに繋がらない原因になるんですね。 いわば「直観性が悪い」ということです。
やっぱりアナログ作画最高…か?
3DCGってまだまだ難しいところがいっぱいです。
何かやろうとすると手数がかかりやすい。
魔法のツールはよ!
「アニメでの3Dキャラクター」の歴史って、まだ20年くらい(?)なので、これからどんどん作り方とか世界が変わっていくんじゃないかと思います。作画アニメも最初の頃は今みたいなリアリティのある表現とかできてなかったですし。
ちょっとは弁解を
今回はあえて「違和感」の部分ばかりを上げましたが、「3Dキャラ」にもメリットはいっぱいあるんです!
- 情報量いっぱい足した絵作りをしたり
- リテイク対応に強かったり
- カメラを回り込ませながら複雑な動きしたり
- 枚数いっぱい使った動きが作画と比べると比較的手間がかからなかったり
- 「作画で描けるデザイン」に落とし込みにくいデザインを描きやすかったり
などなど作画では難しいこともできたりします。
あと、クオリティにこだわらなければ、一人または少人数で映像作品を作り切ることができるのも、3DCGのメリットじゃないでしょうか。CGクリエイターで有名な人たちって個人作家的な人が多いイメージがあります。
「アニメ」の「絵」の部分ではなく、「映像」の部分が作りたい人にとっては、表現手法としていい選択なのかもしれないです。他にもモーショングラフィック的な「とりあえず動かしたい」が先に来る人は、向いているかと思います。 ミュージックビデオとかはその典型例かと思います。
また、今回は「キャラクター」の部分にのみフォーカスしましたが、「3DCG」という大きなくくりでいえば、
- 実写的なリアリティのあるレイアウトを撮ったり
- 演出家と一緒に様々なレイアウトをトライ&エラーしやすかったり
- BGを動かしたり
- CGならではのエフェクト作ったり
と、いまやアニメに必要不可欠な存在となっています。
最後に
そもそもにおいて、漫画絵を3Dで疑似的に再現しているだけなので、「立体」を「絵」に変換している時点で究極的には無理があるのでは?と思ったりもします。
そういう意味では、やっぱり作画と3Dは別物といえますが、その上で現状できていないアニメーション表現をどう表現するか、どう品質を上げていくかを考えないといけないと思っています。
僕は作画の再現よりも、広くCGの技術を使って、2Dと3Dのハイブリッドで見たことないような表現をする方が好きです。
伝統芸能とかだと、まずしっかり技術を継承してから、その概念にとらわれずに時代に合わせた新しいことをするといいって言いますよね。
若い世代はゲームとかでコマ数が多いことに慣れてますし、
海外の方は3コマはカクカクするからコマ数多い方が見やすいとか、セル的な表現よりもCG的な表現(見た目的な情報量が多い表現)の方が受けがいいとか、
これからグローバル化していく上では、そのうち「CGでできるような情報量の多い表現の方が需要がある」みたいなことも起きるかもしれないです。
そのときまでに、この課題たちは解決していきたいです。
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