【記号とリアル編】アニメでのモデリング時のデザイナーの絵の読み取り方

『上手くデザイナーの絵に似せられない』『雰囲気が違う』
これらはモデリングしている際によくある悩みですが、まずは「インプット」の部分である「デザイナーが何をどういう意図で描いているか」を読み解けるようになる必要があります。
この記事では僕がキャラモデリング・ディレクション時などに意識している『記号とリアル』という視点について紹介します。アニメ絵の元になっている『漫画絵』について理解することで、どう表現したらいいかの幅が増えると思います。

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「デザイナーの視点」で「デザイン」を見ることができれば、「デザイナーの作りたいもの・表現したいもの」がわかるので、あとはそれをいかに立体化するか考えるだけです。
人によって違うのでなかなか難しいんですが、まずは「見方」を色々増やしていくのが大事かと思っています。

目次

記号とは?

手塚治虫の「マンガ記号論」という、要は「マンガ絵は記号の塊だよ」という説があります。

漫画の世界でよく言われる「記号化」というワードがあります。
色々な大御所漫画家が出している漫画の入門本がありますが、大体最初の方に「記号を組み合わせろ」「落書きでいいからそれっぽく見えればいい」的なことが書いてあります。

この「記号化」は漫画の様々な表現において言えるのですが、「要素を省略・単純化してわかりやすくする」ということです。複雑なことがやキャラクター性が一発で伝わるという面もありますが、ストーリーを描くために大量に描かないといけない中でスピード感よく描けたり、記号さえ合っていればある程度似てくれるという特徴もあると思います。

例えばこんな感じの記号たちです。

この漫画の中で使われる「記号」は先人たちが発見してきた、「こう描くとこう見える」「こう描けばある要素を簡単に表現できる」「こう描くと特徴が出る」の集合体で、【表現のアイデアの結晶】みたいなものだと思っています。
「記号表現なし」で描こうとすると、表現したいことを表現する際に絵画技術としての難易度が高いんです。
「ピクトグラム」とかもそうですよね。言語を使わなくても、すごくシンプルな要素で誰にでも情報を伝えられるように簡略化されていて、『何かの特徴を最大限シンプル化するとこうなる』みたいなのの極地です。

シルエットで何を表現してるかわかります

この「記号」を組み合わせているのが日本の漫画絵の原点です。
手塚治虫は「象形文字みたいなもの」と言ったそうですが、とても本質を捉えてると思います。
僕は「福笑い」みたいなものだと思ってます。
「作られた記号のパーツ」を組み合わせて顔を作って遊ぶという、あの遊びは本当に日本らしい文化だと思います。

記号と写実表現

ここで、最近の絵に至るまでの漫画の絵の変遷をかいつまんで見てみましょう。

写実化の流れ

最近の漫画絵は1980年代くらいからの流れで、「写実的な表現」が入っているものが比較的多いです。
これは漫画だけでなく、アニメにおいても非常にリアルな動きをしていたのが1980~1990年代くらいのアニメだと思います。

よく言うのが、日本の漫画キャラクターはそのあたりから「記号的な顔」「写実的な肉体」の表現が多いと言われています。その典型例が「美少女キャラ」です。
バズっているイラストや流行りの漫画などをよく観察してみましょう。顔は「記号的な(漫画的な)表現」をしているのに、体はかなり「写実的」に描かれていることが多いです。

記号の頃はどうだったか?

逆に言うと、1980年代以前によくあった漫画絵は体や背景も含めてほぼ「記号化」されているんです。
今でも続いている国民的アニメで例を挙げると、

サザエさん、ちびまる子ちゃん、ドラえもん

を見てみましょう。このあたりの漫画絵というのは「記号化」されているので、ある程度だれでも描きやすいというのが特徴といえます。「絵描き歌」で描けるようなニュアンスですね。
これはまさに「福笑い」で、多少バランスが拙くても「それらしく見える」ので、誰でもちょっと練習すればそこそこ描けるようになるというのが、日本の絵の特徴ではないでしょうか。(だから、日本はこんなに漫画家が多いんですかね?)

記号と写実(リアル)と3DCG

この「記号と写実表現(リアル)」を見たときに、3DCGが得意なのは勿論「写実的な(リアル)表現」です。
ですが、アニメの絵は漫画絵を元にしているので、「記号」が入ってくるんです。

この「記号」と「リアル」の匙加減を明確に読み解くのが、「アニメでのモデリング時のデザイナーの絵の読み取り方」において、非常に重要な点と言えます。これを取り間違えたり、意識しないでなんとなく作ると、「見た目だけセルルック」とかにしても『なんか違う…』となってしまうんです。

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「記号」で表現しているのに「リアル表現」にしてしまったりとか、
その逆で「リアル」に表現してるのに「アニメだから描かれている線のところに線が出るようにしとけばいいんでしょ」と平面的造形してしまったりという具合です。

記号の読み取り方

この漫画の重要な表現である「記号化」ですが、当然のことながら、その記号化される前の「リアルな(現実の)モチーフ」が存在します。

「リアルの対象物(モチーフ)」を記号化して表現していったのが、日本の「漫画絵」
その「漫画絵」を動かしているのが日本の「アニメ」
その「アニメ」を立体化して動かしているのが日本の「アニメ3D」

要は「見た目的には記号化されて表現されている対象は、現実的なモチーフの何を拾ったのか?」を分析する必要があります。立体化する上では、その「対象となるモチーフ」をしっかり理解して、「平面的な記号」「立体的な記号」として落とし込む必要があります。
つまり、図にするとこういうことです。 

よくある記号表現を例にして、いくつか見てみましょう。
上記でも書いた通り、顔が多く、わかりやすいと思います。

実写と記号絵を比較するとこんな感じでしょうか。

例えば難しいのが、二重線なのか眼窩の窪みを表現した線なのか迷う時がたまにあります。

僕は記号が上手く読み解けない場合は「キャラ性」で判断するようにしています。
「このキャラを実写にしたらこっちかな」みたいな想像をしながら作っています。

他にも、瞳の位置で横から見た時の目の形がなんとなくわかります。


記号だけで判断していると平面的になってしまいがちですが、「記号を解釈」すればそれらしい立体にすることができます。
もちろん記号が強ければ、「あえて平面的に表現する」場合もありますが、重要なのは「なんとなく」ではなく、きちんと「意図」を持って造形することです。

耳は気づきにくいですが、結構全体の記号感・リアリティ度合に合わせて、記号が変化していきます。
意外なところでいうと、DisneyやPixar作品の耳は結構シンプルな形をしています。

なんとなく「耳の外枠」と「耳珠」は比較的一定のリアリティのある作品なら描く傾向があるように思えます。
ただ、これはもしかしたら「記号」というより、後述する「デフォルメ」表現ともいえるかもしれません。

髪の毛はすごいです。もはやほぼこれでキャラを描き分けている人もいるので。
髪の毛の記号の解釈は特に「動いたとき」に必要になってきます。

例えば、少年漫画によくある「ギザギザ」の髪の毛は「記号」の意味合いが強いので、3Dにしても「あのギザギザ」の記号を残して立体にしてあげる必要があります。
「リアルに捉える」というより、「髪の毛をギザギザさせる」という、ある意味「形状」として捉えます。
動いても、「動きの方向性」と「束のなびき」みたいなのはありますが、基本的には「ギザギザ」してるんですよ。

他にもキャラクターによっては絶対頭の上についている「アホ毛」とかも「記号」ですよね。
あと、寝癖を表現するときはなんか「遊び毛」ぴょんぴょんさせておけば、「記号」として「髪が乱れている」という表現になります。

逆に「記号の弱いデザイン」つまり「リアリティのあるデザイン」は割と髪の毛として成立します。
というか、描く方もそれを意識して描いているはずです。
であれば、「リアル」を知る必要があります。
「この髪型はなんだろう」と調べていくと、大体それっぽい髪型が見つかります。
その髪型の立体で再現してあげると、立体として成立しやすく、違和感がないことが多いです。

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「この髪型とこの髪型の組み合わせで多分いける」といったのもよくあります。よくよくリファレンスを調べて、その髪型を分析して、どこの毛がどこに流れてるのかとか、どこで縛ってるのかみたいなのを意識してあげると立体に落とし込みやすいです。
特に女性キャラの髪型はこだわってあげるといい感じになります。
キャラクターモデラーをやってると、本当に「かわいいは作れる」って思います。

一番わかりやすい例は、「ワンピース」じゃないでしょうか。
例えば、「ルフィ」の「腕が伸びる」なんていう設定を「記号化」しないでリアルに描いちゃうと、気持ち悪いんですよ。
そこは「記号化」して「にょーん」とまっすぐの線を描けばいいんです。

ってことはそう解釈した場合、立体化する場合は、

  • 伸びたら「筒」
  • 通常時は「腕」

として表現を分ける必要があるように思えてきますね。

「記号化」と「デフォルメ」と「リアル化」

デフォルメ

「記号化」と「デフォルメ」は同じように思える時もあるのですが、微妙に意味合いが違うと感じる時もあります。

例えば、SDキャラをイメージするとわかりやすいです。
「SDキャラ化」というのは、その作業自体が「デフォルメ」ですよね。
ですが、その「キャラ」として認識できるのは、元キャラもSDキャラも「特定の要素が一緒」だからです。
それが、そのキャラにおいての「記号」と言えるような気がしています。

よくできたキャラクターは「どんなにデフォルメされようが、多少作画崩壊しようが、そのキャラとして認識できる」のは「記号表現」がとてもよくできたオリジナリティのあるデザインなんだと思います。

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そういう意味で考えると、上記の「耳」の例とかは「記号化」よりも「デフォルメ」の方かもしれないですね。
「言葉」って難しいですが、普段はここまで気にせず概念的に「記号・デフォルメ」一緒くたに使っている感じもします。

リアル化

「コスプレ」はキャラクターの「リアル化」ですよね。
これも「記号」の解釈が重要で、「モチーフ」を理解して実写に落とし込むと、その印象が残ると思います。

例えば、「ナルト」の舞台版とかよくできてると思うんですが、「ナルト」自体がかなり日本人の体型、顔、衣装を使った描き方をしているので、日本人が日本の衣装を着ると「モチーフが一致」するので、なんか違和感少ない感じになるんだと思います。

「記号」をベースにしたパラメータ調整

この「記号」をベースにした「リアル化」と「デフォルメ」のパラメータ調整できるようになると表現力があがります。
また、普段からそこのポイントを見ながら色んな作品を見ると、「記号」の解釈力も上がります。

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上の例では「形状的要素」のみにフォーカスしましたが、「キャラクター付けするための特徴」である「三白眼」「釣り目」「タレ目」「たらこ唇」「鷲鼻」「太眉」など「記号的特徴」をしっかり汲み取ると、線を追いかけるだけでは表現できない「そのキャラクターらしさ」が出ると思います。
よくできたSDキャラやコスプレは、「色んな解釈・変換例を見れる」という意味でとても参考になると思います。

アニメーションデザイン

作画における「アニメーションデザイン」(原作の絵からアニメで動かせる絵にすること)の中の仕事の一つって、まさにこの「記号」を残して「リアル感・実在感・デフォルメ感」を調整することかと思っています。
アニメの絵って「動かすため」に比較的「立体に寄せる傾向」があるんですが、「原作の記号感」は残っていると思います。

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こう考えていくと「モデリング」も「3Dで作画するためのアニメーションデザインの一種」と言えるのかもしれないです。

対象物を「よく知る」ことが大事

【どうやって読み取れるレベルを上げるのか?】

それは、「その対象物(リアル)をよく知ること」です。
なので、よく言われますが「リファレンス(参考資料)をしっかり見ながら作る」ということが非常に重要になります。

他にも一例をあげると、キャラクターを作るのならば、一見「アニメのモデル」の勉強からは遠そうに見えるアナトミー(解剖学)とかも勉強しておいて損はないと思います。最近のアニメのデザインは思っている以上に人体構造に沿っていることが多いです。

「リアルな対象」を理解していれば、それだけ変換の引き出しも増やすことができます。
「この線なんだ…?」と思ったら、「リアル」をよくよく調べて観察していくと、「ぁ、これ描いてるのか!」と発見できたりします。そうすると「見え方」が変わって、今まで意識できていなかった「バランス感」なども見えてくるようになります。

アニメの絵は線数を少なくするためにシンプルに描かれていますが、作る対象をよく知らずに適当に造形すると、大体動いたときに破綻するか、3Dとしてクルクル回して見たときに違和感が生じます。
その違和感はセルルックにしても、そのまま違和感として残ることが多いです。
何気なく描かれている線一本に対してかなり情報が含まれているので、「その対象を理解する力」はとてもシビアに求められます。

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「3D化」にする際も「線を追っかける」のではなく「何を表現したいと思ってこの線を描いているのか」という「その元」がわかれば、それは立体的なものだったりするので、「3D」に落とし込めます。
下手に線だけ追っかけると、そのものらしく見えないので、違和感が生まれやすくなります。

まとめ

なんか改めて読み返すと当たり前のことを書いた気がするのですが、僕も仕事を始めたばかりの頃は「デザイン画の線ばかりを追いかけて対象が見えていなかった」ので、参考になれば幸いです。

こういったことは、漫画・イラスト・作画など「絵を描く人たち」の中ではよくされている話です。

僕は田中達之さんのこの本がとても参考になりました。
アニメ・イラスト界隈ではとても有名な方ですが、大学で先生もされている方なので「教材」としてとてもわかりやすい内容になっていて、かつ小手先のテクニックではない「本質」が学べると思います。

3Dで表現する上でも、ベースとしてこういったことを頭に入れておくと、より「狙った画面」「表現したいこと」が作りやすくなっていくと思います。

sawada

「ぁ、この人の記号化はアレだ。ってことは動くと多分こうなるから、立体としてはこうしておこう。」みたいな想像ができるようになると、設定画に「”情報”として描かれている要素」も読み取れるようになると思います。

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